
日本におけるナースプラクティショナー(診療看護師)とは?
最近は特に耳にする機会が多い”ナースプラクティショナー”
看護協会でも2019年通常総会の重点政策にもあげられました。
しかし”ナースプラクティショナー”とは実際にはどんな”役割をもったナース”なのか知らない人も多いと思います。
そこで今回は日本におけるナースプラクティショナーの役割と現在の立ち位置、そしてナースプラクティショナーの歴史を紹介したいと思います。
今回は日本におけるナースプラクティショナーの役割について紹介します。
- 日本におけるナースプラクティショナー制度を知りたい
- 日本のナースプラクティショナーをとりまく歴史的背景を知りたい
- 日本でナースプラクティショナーになるにはどうすればいいのかを知りたい
目次
日本のナースプラクティショナー(診療看護師)認められていない
まず日本のナースプラクティショナーを話す前に最初に言っておきたいことは、日本のナースプラクティショナー、診療看護師は医師法で認められていません。
よってアメリカのようなナースプラクティショナーのように地域、県で認められている資格でもありません。
まだ法律で認められてはいませんが、一般社団法人日本NP教育大学院協議会の認定で民間資格を取得することができます。
日本ではこの民間資格である「ナースプラクティショナー」を有する看護師がナースプラクティショナーと呼ばれます。
日本におけるナースプラクティショナーの役割とは
一般社団法人日本NP教育大学院協議会ではナースプラクティショナーの役割を以下のように述べています。
診療看護師(NP)の役割は、保健師助産師看護師法に定められた看護師の業務(療養上の世話、診療の補助行為)を自律的に遂行し、患者の「症状マネジメント」を効果的、効率的、タイムリーに実施することである。看護師は、診療の補助行為については、「医師の指示」(特定行為については「手順書」)に基づいて行うこととされている。しかし、医療施設あるいは訪問看護ステーションなどで、患者の症状に対応した「症状マネジメント」をタイムリーに実施していくためには、看護師自らの判断で、診療の補助行為を実施できる活動が必要とされる。この活動により、医師不在の時間帯に、施設(訪問看護ステーションや特別養護老人施設等)において、患者の症状に応じたタイムリーな診療を提供することができ,重症化等を防止し、患者のQOLの向上を図ることができる。
このため、日本NP教育大学院協議会では、診療看護師(NP)に、絶対的医行為を除く診療行為を自律的(責任を持って自らの判断)に提供できる能力を備えることを求め、大学院での教育を推進している。
日本でナースプラクティショナーになるには5年働き大学院へ通い試験をクリアする
日本でナースプラクティショナーになるには、先ほども記述があった通り大学院に通う必要があります。
また前提として5年程度の臨床経験が必要です。
ではどこの大学院にいけばいいのか?
2019年7月現在で9つの大学院でナースプラクティショナーの試験資格を得ることができます。
- 北海道医療大学大学院
- 東北文化学園大学大学院
- 国立大学法人 山形大学大学院
- 東京医療保健大学大学院
- 国際医療福祉大学大学院
- 佐久大学大学院
- 藤田医科大学大学院
- 愛知医科大学大学院
- 公立大学法人 大分県立看護科学大学大学院
日本にはナースプラクティショナーの資格を持った人は359人!(2018年3月時点)
アメリカでは15万人がナースプラクティショナーとして働いています。
しかしまだ日本では認知度が低く歴史も浅いため、2018年3月時点で359人がナースプラクティショナーとして働いています。
日本でナースプラクティショナー(診療看護師)を更新するには一生勉強
日本でもアメリカ同様に更新は必要となります。
ナースプラクティショナー資格の更新は5年に1度あり、実践と実績を評価されます。
5年間の間にナースプラクティショナーとしての実践と実績がないと更新できません。
ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格更新に必要な実践とは
ここで言う実践とは、ナースプラクティショナー(診療看護師)が臨地でナースプラクティショナーとしての活動することを指します。
更新に必要な実践時間は5年間で2000時間となります。
ナースプラクティショナー(診療看護師)の資格更新に必要な実績とは
ここで言う実績とは、ナースプラクティショナー(診療看護師)が、臨地でナースプラクティショナーとしての活動する社会貢献や、自己研鑽に関する活動を指します。
この社会貢献や自己研鑽にはそれぞれポイントが付いています。
そのポイントを5年間の間に50点必要なります。
- NP学会で座長を務める:10点
- NP学会で研究発表する:10点
- 学会への参加:5点
- 実習指導の実施:10点
ナースプラクティショナーの受験には3万円、資格更新にも3万円が必要!!
ナースプラクティショナーの受験には、そして資格の更新には費用が掛かります。
受験時は3万円かかります。
あとは5年間で1度更新の必要性があり、その都度3万円の”更新審査料”という料金がかかります。
NP学会に入会した場合は、学生でしたら年間3000円、社会人が個人で入会する際は年間5000円がかかります。
日本のナースプラクティショナー(診療看護師)と特定看護師の違いは?
日本にも看護師をベースに様々看護資格を取ることが出来ます。
もちろん国が認めているものもあれば、民間の協会が認めているだけのものもあります。
- 保健師
- 助産師
- 専門看護師
- 認定看護師
- 特定看護師
- ナースプラクティショナー
その中でも今話題になってきている”特定看護師”と”ナースプラクティショナー”の区別がつかないという声をよく聞きます。
そこで特定看護師とはなにかを説明していきます。
特定看護師とはどんな存在か?
特定看護師をご存知でしょうか?
これはまだ仮の名称であり、特定看護師という名称はありません。
正式には「特定行為研修を修了した看護師」ということです。
ただし、この「特定行為研修」を受けるためには臨床経験が3~5年していることが前提となります。
特定行為とは
特定行為は、診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる次の38行為
では38行為全てお見せします。
特定行為の細かな内容を知りたい方はこちら↓をどうぞ
- 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
- 侵襲的陽圧換気の設定の変更
- 非侵襲的陽圧換気の設定の変更
- 人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
- 人工呼吸器からの離脱
- 気管カニューレの交換
- 一時的ペースメーカの操作及び管理
- 一時的ペースメーカリードの抜去
- 経皮的心肺補助装置の操作及び管理
- 大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整
- 心嚢のうドレーンの抜去
- 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
- 胸腔ドレーンの抜去
- 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿せん刺針の抜針を含む。)
- 胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
- 膀胱ろうカテーテルの交換
- 中心静脈カテーテルの抜去
- 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
- 褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
- 創傷に対する陰圧閉鎖療法
- 創部ドレーンの抜去
- 直接動脈穿刺法による採血
- 橈骨動脈ラインの確保
- 急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理
- 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
- 脱水症状に対する輸液による補正
- 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
- インスリンの投与量の調整
- 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
- 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
- 持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
- 持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
- 持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
- 持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
- 抗けいれん剤の臨時の投与
- 抗精神病薬の臨時の投与
- 抗不安薬の臨時の投与
- 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整
これら38行為のうちの研修を一つでも終了した人が”特定看護師”と”呼ばれます。
一度取得すると更新の必要がないのも特徴の一つです。
診療看護師≧特定看護師と考えればよい
特定看護師の働きを見てもらって分かったと思いますが、ここでまとめます。
- 特定看護師は38項目のうち研修した行為だけだが、診療看護師は38項目+穿刺などできることが多い
- 特定看護師に修士号は不要だが、診療看護師は大学院を経て、修士号を得ないとなれない
- 特定看護師は更新が不要だが、診療看護師は5年に1度更新が必要
診療看護師は特定看護師が出来ることは全てできる!
ですが診療看護師になるには大学院に行く必要があり、更新も必要ということです。
つまり診療看護師≧特定看護師ってことです。
日本におけるナースプラクティショナー(診療看護師)の歴史
日本でのナースプラクティショナーをめぐる歴史を紹介します。
まだナースプラクティショナーという立場が確立されていないため、現在進行形の歴史と言ってもいいでしょう。
ナースプラクティショナー(診療看護師)が日本で必要とされた理由
一番の理由は海外、特にアメリカでナースプラクティショナーが日本と同じ医療に関する問題の解決策になったことです。
いきなり日本のナースプラクティショナー編からご覧になっている方もいるので、必要とされた理由を少し細かく見ていきます。
ナースプラクティショナー(診療看護師)が医療費削減の救世主となる。
先ほどアメリカのナースプラクティショナーの介入によって医療費削減に大きくつながったという話をしました。
現在、日本の公的医療費は30兆円ちかくを国家予算で賄っています。
こんなに医療費が沢山公費で負担されています。
少子高齢化で国としては収入が下がるのに高齢者の医療費を減らないという問題を抱えています。
また現代の日本人の健康に関する考えとして「医者に行くほどのレベルではない状態」でも「安心」を得たい気持ちが強く、受診及び投薬を受けようとする傾向があります。
そういった考えの日本人にいきなり「そのレベルで病院へ行くな!」と言っても聞き入れないでしょう。
- 医者に行くほどのレベルかどうかの判断が難しい
- いまある安心を手放すことが難しい
そこで国の作戦としては、国民に「病院へ行くな!」というのではなく、「今と同等に健康に対する安心を得つつ、医療費を削減する」という方向で考えているのです。
そこでアメリカで実績のあるナースプラクティショナー制度を使うことで
- 医者よりも医療費が安く診察・治療ができる
- 患者の近くに寄り添い、個別性を踏まえたケアを得意としている看護師が疾病予防及びその悪化を防ぎ、結果医療費が安く済む
こういった理由から、国は医療費削減にむけて、ナースプラクティショナーを救世主とみているのです。
慢性的な医師不足の解決にもナースプラクティショナー(診療看護師)
慢性的に医者不足が嘆かれている昨今、“医者が偏っている”ことも理由の一つです。
人数が足りている診療科もあれば、小児科や産婦人科など人手不足の診療科もあります。
医者が沢山いる地域もあれば、都会ではない地区や過疎地区など医者不足になっている地域も多々あります。
先ほどのアメリカでのナースプラクティショナーが生まれたきっかけもここでした。
医師不足の科ではナースプラクティショナーの導入で診療できるスタッフが増え潤滑かつ、スタッフの負担がすくなければ安全に職務を全うできます。
過疎地区などでナースプラクティショナーがプライマリーケアを展開することで、医者不足が嘆かれている地域でも、健康かつ不測の事態にも対応できるます。
日本では2008年からナースプラクティショナーを生み続けている。
こういった社会背景、諸外国でのナースプラクティショナーの活躍から、日本でもその効果を期待され、大分県立看護科学大学、国際医療福祉大学、東京医療保険大学の3校が集まり、2008年に「日本NP教育大学院協議会」(※現在の日本NP学会)を立ち上げました。
その中で大分県立看護科学大学大学院が最初に学生を受け入れ、ナースプラクティショナーの養成が始まりました。
少しずつナースプラクティショナーの資格者も増え、2015年にはNP学の発展に向け、「日本NP学会」を設立しました。
NPの保助看法の改正に向けて特定行為だけは認められた(2019年7月現在)
「チーム医療の推進に関する検討会」の報告書では「特定の医療行為」について議論を重ね、今の特定看護師に関する領域は保助看法の改正にこぎつけました。
よって”特定行為を行うことができる看護師”については認められました。
日本のナースプラクティショナー(診療看護師)が抱える課題
ナースプラクティショナーの仕事を法律で認めてもらう必要がある
一番の課題はここです。
まだ資格として認められていないため、国が認める法律にするためには法制化が絶対に必要です。
法制化に向けて必要な事は以下の通りです。
- 現在のナースプラクティショナーの実績を報告
- ナースプラクティショナーの必要性にしっかりとした根拠をもつような取り組み
- これらを国に伝えるための政治家の力
そうなんです。
結局は行政や政治の力抜きでナースプラクティショナーの法制化はすすみません。
ナースプラクティショナー(診療看護師)の人材確保
先ほども述べたようにナースプラクティショナーの実績を報告することが重要です。
そのためにもナースプラクティショナー資格を有するスタッフを増やすことが必要となります。
ナースプラクティショナー(診療看護師)として実践できる場所の提供
まだまだナースプラクティショナーとして実践する場所が少ないのです。
指導者の絶対数が少ないこともあります。
ナースプラクティショナーとしての教育を受けることが出来る、そして働ける場所を増やすことが人材確保にも不可欠となります。
ナースプラクティショナー(診療看護師)における診療の安全性
ナースプラクティショナーの数を増やすことが必要と話しましたが、ただただ増やせばいいわけではありません。
有能なナースプラクティショナーが実践し、貢献してこそ認められます。
そして社会に「ナースプラクティショナー」の必要性だけでなく、安全性を伝えることが必要となります。
そのためにもさらにナースプラクティショナーの教育にはまだまだ課題が沢山あるといえます。
ナースプラクティショナー(診療看護師)の気になるお給料は・・・?
診療看護師の給料はもちろん職場ごとに違います。
国立病院機構に関しては給与について記載があるので調べてみると、月に6万円程度の手当がつくそうです。
大学院にまで行ったりすることを考えると、給与up目的だけじゃなく高い志がないとなれないね
まとめ:日本でもナースプラクティショナーは普及していくでしょう!
どうでしたでしょうか?
あくまで看護師目線のナースプラクティショナーの解説です。
医師からはまだまだ疑問視、問題視されている部分も多い領域ですが、現在の日本が抱える医療の問題を解決するにふさわしい資格ではないかと考えます。
しかし現在日本が抱える、そして今後日本が直面していくだろう問題に対して救世主となれる職務であると思われます。
これだけ看護業界が推進する事業ですからね。
つまり今後このナースプラクティショナーはどんどん普及し、欠かせない存在になるとつぶたは予測しています。
ナースプラクティショナーがそこまで浸透していない今!
上を目指したい、スキルアップしたい、もっとできる業務の幅を広げたいと考えている看護師の方はぜひナースプラクティショナーになってみませんか?
そして看護師の地位向上のためにも、看護師全体でナースプラクティショナー、診療看護師を盛り上げていきましょう。